大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和62年(わ)1979号 判決

国籍

韓国(慶尚南道威陽郡西上面玉山里六七五)

住居

愛知県豊橋市中世古町五三番地

衣料品販売業

金山利政こと金利政

一九五〇年一一月一四日生

右の者に対する各所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官伊藤裕志出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納できないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一  愛知県豊橋市中世古町五三番地に居住し、同市大橋通一丁目八七番地二ほか三か所において、「パンツショップヤマト」、「ヤングヤマト豊川店」、「ヤングヤマト南店」及び「ベストワン」の名称で衣料品販売業を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告に際しては、所得金額に関する収支計算をせず、適宜の過少な所得金額を計上するところのいわゆる「つまみ申告」を行う方法により、所得の一部を秘匿した上

一  昭和五八年分の実際の所得金額が七五五八万六九九二円であり、これに対する所得税額が四一四五万九二〇〇円であるのに、同五九年三月一五日、同市前田町一丁目九番地四所在の豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六一三万九七〇三円であり、これに対する所得税額が七二万八一〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額四〇七三万一一〇〇円を免れ

二  同五九年分の実際の所得金額が七三七一万一三五一円であり、これに対する所得税額が三八六八万四一〇〇円であるのに、同六〇年三月九日、前記豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五〇八万六〇〇五円であり、これに対する所得税額が四四万三七〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額三八二四万四〇〇円を免れ

三  同六〇年分の実際の所得金額が九四二六万七五一七円であり、これに対する所得税額が五二六五万八四〇〇円であるのに、同六一年三月一〇日、前記豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一四四八万二五〇〇円であり、これに対する所得税額が三四四万九〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額四九二一万七五〇〇円を免れ

もって、いずれも不正の行為により所得税を免れ、

第二  愛知県豊橋市中世古町五四番地に居住し同所ほか一か所において「大和商会本店」及び「ヤングヤマト広小路店」の名称で衣料品販売業を営む金山一郎こと金炳圭の代理人として同販売業の業務全般を統括しているものであるが、右金炳圭の業務に関し、同人の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告に際しては、所得金額に関する収支計算をせず、適宜の過少な所得金額を計上するところのいわゆる「つまみ申告」を行う方法により、所得の一部を秘匿した上

一  昭和五八年分の実際の所得金額が四〇七二万二二〇七円であり、これに対する所得税額が一八八二万六三〇〇円であるのに、同五九年三月九日、同市前田町一丁目九番地四所在の豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七四五万七二四一円であり、これに対する所得税額が一三九万一一〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額一七四三万五二〇〇円を免れ

二  同五九年分の実際の所得金額が三九五一万五〇〇二円であり、これに対する所得税額が一七七四万九七〇〇円であるのに、同六〇年三月九日、前記豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五五六万二〇〇六円であり、これに対する所得税額が八五万九〇〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額一六八九万七〇〇円を免れ

三  同六〇年分の実際の所得金額が二六〇〇万九九〇五円であり、これに対する所得税額が九三六万五四〇〇円であるのに、同六一年三月一〇日、前記豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一五〇四万円であり、これに対する所得税額が四二五万五四〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額五一一万円を免れ

もって、いずれも不正の行為により前記金炳圭の所得税を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一〇通

一  金玉順の検察官に対する供述調書

一  金玉順(四通)、朴将哲、石榑栄也、榊原雄二、平田康祐、神谷太、石田隆一、早速正夫、平田佳子、金朝子、金美恵子、金貞愛、金佐江子、村田マサ、今井良雄、太田泰祐の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二二通

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一の事実全部について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料(一九三丁のもの)

判示第一の一および二の事実について

一  大蔵事務官作成の所得税の修正申告分(昭和五八年度分、五九年度分)を納付した事実についての証明書

判示第一の一の事実について

一  大蔵事務官作成の所得税確定申告の内容(昭和五八年度分)についての証明書

一  大蔵事務官作成の脱税額の確定(昭和五八年度分)についての脱税額計算書

判示第一の二の事実について

一  大蔵事務官作成の所得税確定申告の内容(昭和五九年度分)についての証明書

一  大蔵事務官作成の脱税額の確定(昭和五九年度分)についての脱税額計算書

判示第一の三の事実について

一  大蔵事務官作成の所得税の確定申告の内容(昭和六〇年度分)についての証明書

一  大蔵事務官作成の脱税額の確定(昭和六〇年度分)についての脱税額計算書

判示第二の事実全部について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料(八五丁のもの)

一  大蔵事務官作成の所得税の修正申告分(昭和六〇年度分)を納付した事実についての証明書

判示第二の一の事実について

一  大蔵事務官作成の所得税確定申告の内容(昭和五八年度分)についての証明書

一  大蔵事務官作成の脱税額の確定(昭和五八年度分)についての脱税額計算書

判示第二の二の事実について

一  大蔵事務官作成の所得税確定申告の内容(昭和五九年度分)についての証明書

一  大蔵事務官作成の脱税額の確定(昭和五九年度分)についての脱税額計算書

判示第二の三の事実について

一  大蔵事務官作成の所得税確定申告の内容(昭和六〇年度分)についての証明書

一  大蔵事務官作成の脱税額の確定(昭和六〇年度分)についての脱税額計算書

(法令の適用)

被告人の判示所為中、判示第一の一ないし三の各所為はそれぞれ所得税法二三八条に、判示第二の一ないし三の各所為はそれぞれ同法二三八条、二四四条一項に該当するところ、判示各所為は、いずれもその免れた所得税の額が五〇〇万円を超えるので、情状により、各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により、各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、右懲役刑につき情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

被告人の本件各犯行は自己の事業のための資金を脱税という不法な手段で簿外資金確保する意図の下、わずか三年の間に、いわゆる「つまみ申告」という悪質な方法で、一億六七六一万円にもおよぶ莫大な金額に及ぶ脱税をなし、かつほ脱税率も極めて高い事案であるが、このような犯罪は事業者を信頼して事業者自身から正しい所得を申告させ税額を確定しようとする所得申告制度を悪用したものであり、税負担の公平に対する国民の信頼を著しく侵害し、国家の財政基盤をゆるがす犯罪であり、かつ、このような犯罪は模倣性の強いものであるから、一般予防の観点からも厳しくその責任が問われなければならない。

しかし、他方、被告人は十分に自らの犯行を反省するとともに、本件各犯行を全て認めたうえ修正申告を行い、本税、延滞税、重加算税を納付し、また本件犯行後、青色申告制度を採用し、税理士による適正な会計管理方法を取り入れるなど改悛の情もみられ、また、父親の死亡による会社管理家族に対する責任が加わったことから、再犯のおそれも高いとは言えないこと、さしたる前科もないことなど被告人に斟酌すべき事情もあるので、それらの情状を総合して考慮した上、主文のとおりの量刑をした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮平隆介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例